将棋が強くなるための「過程」について
今回のテーマは「将棋が強くなるための過程について」です。
「将棋を強くする」という指導者側の過程と「将棋が強くなる」という生徒側の過程について、私の考えを書いてみます。
将棋を強くする過程
タイプはさまざま
まずは、指導者側の過程です。
私は将棋の指導者として多くの子どもたちに接する機会があるのですが、本当にいろんなタイプの子がいます。将棋においては、頭に浮かんだ手をそのまま指す直感型の子がいるかと思えば、じっくりと考えて自分で納得できたら指す、という子もいます。中にはどこまで行っても決断ができず、一手に1時間以上かける子もいます。
これは別に、どのタイプが良いというものではありません。あくまで、子どもたちの性格や考え方の違いから作り上げられた個性であり、持ち味ともいえるでしょう。
ですから、当然将棋が強くなるペースは一人一人違いますし、勉強方法もそれぞれに合ったものが必要になってきます。同じ勉強方法で同じ時間努力したとしても、その結果身につくものは人それぞれで全く異なってくると考えています。
「将棋の強さ」の円を描く
もちろん指導者としては、それぞれ一人一人に合った指導方針や指導方法を考えることになるのですが、私の捉え方としては、まずは大雑把にその子の「強さの円」をイメージして分類するようにしています。
「強さの円」とは、まず将棋の強さが「大きい」そして「形が奇麗」な円だと考えます。つまり、円が大きければ大きいほど、形が奇麗であれば奇麗であるほど「将棋が強い」ということです。
そしてそれぞれの子どもたちを、
- まずは小さく奇麗に円を描いて、それから大きさを広げようとするタイプ
- まずはアバウトに大きな円を描いて、それから形を整えていくタイプ
以上の二つのタイプに分けて、おおよそのイメージを掴むようにしています。
それから、
- 身についていること=円の中にある
- 身についていないこと=円の外にある
という感じで、その子の将棋の強さの円をイメージで描いて指導に当たっています。
経験か理論か
ある程度のタイプ分けができたら、基本的な指導方法を決めていきます。
まず前提として、どちらのタイプにも最低限の技術的な勉強はしてもらうことになります。「詰め将棋」や「寄せの手筋」、「駒の手筋」などがこれに当たります。それから、「とにかく実戦を多数こなし、経験を積み上げることで頭に入れていくタイプ」と「対局数よりも、じっくり理屈を理解しながら進める理論タイプ」とに分けて、実際に指導を行っていきます。
前者はとにかく指すことがメインで、それこそ「指しながら学んでいこう」ということになります。ですから、こちらは当然「他の人よりもたくさん指すこと」がまずは大事です。後者は、将棋の「基本」を理屈をつけて理解しながら、じっくり一手一手を価値あるものに練り上げていくことになります。こちらは、理解力のペースに合わせた指導が大事です。
これらのことを指導者側は意識しながら、将棋を伝えていきます。
将棋が強くなる過程
意識して試す
今度は生徒側の過程になります。
生徒は当然、指導者から大事なコツを教わるのですが、私はこの大事なコツというものはとてもシンプルなものだと考えています。ですが、シンプルだから簡単だというわけではありません。むしろシンプルだからこそ、その理解度と表現のための技術力ですごい差がつくのだと思っています。
そして、この将棋の本質ともいうべき大事なコツは、指導者からちょっと聞いて2、3回試しただけで身につくようなものではありません。それこそずっと意識して失敗を重ねながらやり続けて、いつかは特に意識しなくてもやるようになっている、いわゆる身についているというレベルまで昇華させなければいけません。
ですから、とにかく「知った知識は意識して身につくまで試し続ける」ことが、強くなる過程でとても大事です。
壊して再生
ただ、心に留めておかないといけないのは、この「意識して身につくまで試す」という作業の過程で、一時的に勝率が落ちる傾向があるということです。これはどうして起きるかというと、一つの大事なコツを「意識して身につくまで試す」ために、ある程度は身についていた他の大事なコツへの意識が減ってしまうからです。
ですが、私はそれでいいと思います。たとえ一時的に勝率が落ちたとしても、新しい大事なコツが身についたと言えるレベルまでになった時には、自然と他の大事なコツも少しずつまた出来るようになってくるからです。なぜなら、それらのコツは一時的に意識が減った分レベルが下がっていただけで、ある程度身についていたものは、対局を重ねるにつれてまた出来るようになってくるからです。
これを前述の「強さの円」に例えれば、
「一度できた円に外部の円を取り込もうとしていったん形がいびつになったけど、整えているうちに円自体が大きくなっていた」
という感じです。
この「壊して再生」の過程が、将棋が強くなる過程だと私は考えています。
これらの指導側と生徒側それぞれの「過程」がうまく融合できれば、子どもたちも良い方向に強くなっていくのではないでしょうか。
今回は以上です。
ご覧いただきありがとうございました。
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