八枚落ち編(6)最終回 ~八枚落ちの棋譜② スピードの攻め~
前回の記事に引き続き、私が指導の時に、子どもたちによく並べて見せる八枚落ちの棋譜です。
前回出てきた指導ポイントは、「成り駒は引いて使う」というものでした。
今回がいよいよ八枚落ち編の最終回です。
それでは、残りのポイント書いていくことにします。
スピードで攻める八枚落ち②
攻め駒を増やす
局面は、上手が△5三金と上がったところです。
下手は成香をしっかりと引いて使い、上手玉の側の金を攻めています。
この「玉の側の金を攻める」というのもすごく重要なポイントで、これは駒落ちに限らず平手においても大事なことです。
また、相手の囲いを崩すときにどの駒を狙えばいいか、を判断するときは「盤上から相手の玉を無くしてみたときに浮いている駒」が一つの目安となります。
さて、下手は上手の5三の金に目を付けました。
しかも上手玉が側にいるので、その金を攻めれば玉を攻めることにも繋がります。
そして下手の龍と成香の位置を考えると、最も駒の利きが多い4三の地点が狙いどころとなります。
ですが、まだそこを攻めるには駒の数が足りません。
そこでどうするか?
ここで、ものすごく大事な手筋が出てきます。
この棋譜は、その手筋を伝えるためにあると言っても過言ではないでしょう。
それは▲2四歩と伸ばす手です。
下手は▲2四歩~▲2三歩成とたった2手で「金」が1枚増えます。
しかも、それを防ぐ手段が上手側にはありません。
これは「垂れ歩」という「歩の手筋」です。
平手の実戦でもよく出てくる、極めて重要性の高い手筋ですので、必ず伝えるようにしています。
取る?取らない?
下手は「垂れ歩」の手筋で「と金」を作り、相手より多い駒で4三の地点を攻める準備が整いました。
ただ、ここで上手が△7五歩と駒をぶつけてきました。
私はよくここで「取る?取らない?」と質問します。
これは、どちらでも答えとしては正解なのですが、別に取らなくても7七の地点は「角」も「桂馬」も利いていますから、成られたところで玉は危なくはありません。
ですからここで、「スピードの攻め」の考え方として「手抜く」という感覚を伝えています。
これも将棋においては、特に中盤以降で大事になってくる感覚ですので、「相手するかしないか」という考え方をここでしっかり伝えておきましょう。
駒の利きを通す
いよいよ下手の「数の攻め」が威力を発揮する局面になりました。
ただ、ここで▲4三成香と指す子も結構多いです。
この場合はそれでも勝てるのですが、ちょっと龍の通り道に自分の駒が集まりすぎているのが気になります。
ここでは「▲4三と」と龍の利きをしっかり通したまま攻める、という考え方を伝えた方がいいと思います。
主役は最後に
【図6】の局面以下、下手の「数の攻め」が決まって一気に上手を投了に追い込みました。
そして、この最終手である▲7三龍で最後に伝える大事なことが出てきます。
それは「飛車は成ったらできるかぎり動かさないこと」です。
よく子どもたちは、ちょこちょこと龍を一マスずつ動かすような手をたくさん指します。
せっかく作った龍という強い駒、使いたくなる気持ちはよくわかります。
ですが、強い駒だからこそ大事な時に一気に動かせばいいのです。
それよりも一マスずつしか動けない、でも使えば「金」の働きをしてくれる「成香」や「と金」を優先的に動かして、しっかり働かせてあげること。
これが最後に、この棋譜で伝える大事なことだと思っています。
以上、私がよく使う八枚落ちの棋譜例でした。
「最善の手順」ではないですが、一手一手にちゃんとその時その手を指した理由があること、また、「スピードの攻め」を伝えるのに十分なスピード感のある棋譜だと思っています。
私の考え ~最後に~
ここで最後に、私の考えを一つ書きたいと思います。
この棋譜を子どもたちに並べて見せるにあたって、必ず伝えていることがあります。
それは、
「この棋譜通りに指しなさい、と言ってるわけじゃないからね。好きに指していいから、この棋譜を使って説明した大事なコツを、しっかり守るように心がけてください」
ということです。
駒落ちをやるのは、駒落ちで「勝つため」ではありません。
駒落ちで「強くなるため」です。
ですから定跡を覚えるような、駒落ちで「勝つ手段」の勉強は、ほとんど指示したことがありません。
もちろん、自主的に取り組んでいる子には「頑張ってるね~」と褒めるようにしています。
私は、将棋の強さは平手で語られるものだと思っていますので、すべては平手の将棋に活きることを伝えるために駒落ち将棋をやっています。
大事なのは、子どもたちを枠にはめ込まないこと「形にあてはめないこと」だと考えています。
「定跡」は頼るものではなく使いこなすもの、というのが私の考えなのです。
以上で八枚落ち編は終了となります。
ご覧いただきありがとうございました。
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